以前から告知しておりましたが
直し屋初のミリタリーシャツを作っておりました。
3月は6ポケットベイカーパンツ。
4月がこのミリタリーシャツのスケジュールでしたが、
全体的に前倒しで制作アイテムが入荷してくれました。
これまでに数百枚のユーティリティシャツを
加工、販売してきた当店がオリジナル企画として
わざわざ作る訳ですからただのユーティリティではない。
アメリカ軍が採用したOG107と言う
素晴らしいコットン素材よりも良いコットンサテンは
現代では作る事ができません。
あの時代の広大な土地で作られる綿のレベルは
今作れませんのでコットンサテンは
もともと考えていませんでした。
構想だけで言えば何年だろう?
そのイメージに物作りの経験を重ねる事で
作れる物のレベルが格段に向上した自信がある今、
ついに形になった直し屋のユーティリティ発表です!!

何だこれ?
よーく見てください。
見た事があるような?無いような…
モノマネであり、モノマネではありません。

お好きな方なら何となく分かってきますかね。
これは民間の2nd風ユーティリティです。
素材はコットンサテンではなく、
ポプリンです。
アメリカ軍がベトナム戦争の初期に
亜熱帯地域用に採用したコットン素材です。
即乾、吸湿性に優れた素材なので
採用されたと想像できますが、難点もありました。
突き刺しに弱いのです。
亜熱帯では枝が多いのでどうしても穴が開く。
これにより短命に終わった素材こそがポプリンです。
ミリタリーマーケットでは初期モデルという事もあり、
非常に人気で高価で取引されています。
主にファティーグに使われていましたので
古着屋さんでも人気のアイテムですね。

私はそれに興味がありません。
好きなのは「TROOPER」社が作っていた民間の2ndです。
これはコットンサテンとポプリンの2種類があり、
厳密に言えばポリ混も以後に出ますのであくまでも
60年代の中ごろの話です。
このポプリンの2ndは昔から無い。
あってもボロいとか、穴はなくても生地や糸が死んでいたり、
デットが出てもSサイズしかない。
もう10年以上古着屋さんでは無いので知りませんでしたが
最近はあの頃の3倍くらいの価格で取引されてるようでして
はっきり言えば着れるのが入手でいないアイテムです。

それを今のユーティリティとして
基本型から全てオリジナル設計で具現化したのが
このポプリンシャツです。

そもそもこのコヨーテカラーは存在しません。
良いのです。
レプリカを作ってる訳では無いから。
あくまでも現代服を作っていますので
何の縛りもありません。

TROOPERの2ndがイメージでありながら
このシャツを作るのにそれを一度も見ていません。
何かを見て物を作ると、
どうしてもそれに寄せてしまいます。
それが無意識だとしても
モノマネ作ってる訳じゃ無いので
あくまでもイメージがそれなだけです。

1stサンプルはぜんぜん違う民間の2ndで特大の個体。
それをベースにサイズ感を作る作業から始めました。
悪くないサンプルができましたが、
民間の2nd特有の細めの袖が今の気分では無かった。
それをベースに2ndサンプルへと向かしますが
予想外の壁にぶち当たりました。

縮みです。
コットンは縮みます。
ある程度なんですが生地段階で
防縮は何かしらの調整がされています。
なので縮んでも許容範囲で形に出来る。

服は洗うと縮みが出ます。
それにより「パッカリング」と呼ばれる
引っ張りが出てきます。
これをヴィンテージ感だと呼んでる
素人のファッション屋さんでは無いので
技術屋としてはそれを許容範囲にして物作りをしたい。

このポプリンは軽い素材です。
それを量産用の綿糸ではなく、
一般的には流通していない綿糸で縫製しています。
その綿糸の縮みと、ポプリンの縮みのズレが
予想以上にパッカリングを出してしまった。
これにより
何か一手を打たないとダメだってなりました。

そこで思いついたのは生地洗い。
生地を洗って、縮ませてから縫製すれば
この必要以上を許容範囲に出来るのでは無いかと。

2ndサンプルは生地洗いが出来ると確認してから
細かい調整も含めて制作に入りました。

その2ndサンプルがこのオリーブです。
コヨーテは3rdサンプル。
見てもらってる個体と説明は逆ですが
サンプルの話だからどうでも良い。

この2ndで基本型は完成しました。
生地洗いで作った個体を洗濯してこの表情です。
正直、もう少し縮みのコントロールはしたかったのですが
たぶんこれ以上は他の事を犠牲にしないとでしたので
ここで打ち止めにしました。
満足してないのではありません。
ここまで出来たって感じです。

3rdと2ndでタグの付け方が違います。
1stは普通に付けてましたが
そう言えば初期のTROOPERって
衿にタグが入り込んでたと思い出してこうしました。
いわゆるファッション屋さんとの大きな違いは
サンプルをアレンジして服を作るんじゃなくて、
サンプルはあくまでも好きな物のイメージでしか無い。

無駄な作業に感じますが
たたき台を自分で作るところからやるので
たかがシャツ1枚の販売までに1年以上の時間が必要になる。
これが当店の物作りです。

なのでこの特徴的な胸ポケットも
官給品の2ndでもなければ、
イメージのTROOPERでも無い。
最初の眺めた1stサンプル作る前に見た
民間の2ndにそれを再構築してこうしました。

それに味付けのピスネームを
どこに付けるか調整してこの2ndはこうなりました。
私の物作りは計画性が無く、
頭の中に無数に散らばったアイデアを
サンプル作りながら点を線に繋げていく方法。
文字で無駄なお金と時間がかかるので
他の方には勧めれません…

筒袖って最高です。
ある程度の長さがあれば短く加工できるし、
基本的には気温でロールアップすれば良い。
これでコヨーテの3rdサンプル制作に入っていきます。
最後の最後までボタンは当時物オリジナルを
使おうと思っていました。
けっきょくは止めました。
形になれば我々よりもこの服は残ります。
でも、ボタンは割れます。
当時のボタンは今のボタンと材料の配合も違うし、
単純に強度面が今より悪い。
なので販売個体でもボタンが割れてる事は多い。
それをストックと交換しているので
そのマイナスを後世に委ねてはいけない。
私が生きていればストックあるので交換できます。
でもその先を考えて今回はやめました。
と言っても
当時の配合で現代作ったレプリカを採用。
ここがうちです。
いわゆるボタン屋さんのボタンでは
他の人にも出来ますが、
今回の特別なボタンは絶対に出来ませんから…

そこまで決まって最後の最後に高い壁にぶつかりました。
この写真はサンプルですので
ボタン付けもテストで行った付け方です。
まず、普通に付けると細めの糸になる。
それは嫌でアメリカ軍の付け方にしたい。
それは今のボタン付け屋さんでは無理だ。
そうなりました。
次に手縫いです。
工場でやってもらったすごい下手…
最悪、自分で全部付けるしか無いかと
絶望を感じていたら奇跡が起きました。
いつもはお願いしていないボタン付け屋さんで
持ってる機械であのつけ方が出来るかもしれない。
そうやってサンプル作ってもらって
多少の調整は必要でしたがやっとゴールを迎えることが出来ました。

生地洗いで生地代が30%上がったり、
ボタンの付け方と、ボタンホールの変更で
予想外のコストアップになったり…
当初のイメージした販売価格では無くなりましたが
サンプル製作費も、私が用意したボタン代も、糸代も
下代の計算には入れない事でこの販売価格にしました。
たかがシャツ。
こだわってるように見えないかもしれませんが
その奥に秘めたこだわりの塊です。
どこに出しても恥ずかしくない物作り。
価格以上の満足感を保証いたします。
そしてこの企画には続きがあります。
続く。
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